今西家新家の紹介/今井町 伝統建築

民家の生き方

Imanishi Famly owner Residence visit Prince Charles The Prince of Wales 今西家 来訪 チャールズ皇太子
17代 今西啓師とチャールズ英皇太子 (Prince of Wales)

天保元(1830)年創業の東大寺・春日大社・興福寺など寺社建築の建立修復を手掛けてきた「建築工の匠」奈良の尾田組の伝統建築技術によって現代版の今西家を再現すべく、桜井の西垣林業が春日杉や吉野材をそろえ、生駒の山本瓦工業が瓦を葺き、内装は大丸木工部が担当して新築されるに至った。

 

それは、十七代目当主今西啓師(財団法人今西家保存会理事長)と伊藤ていじ氏(工学院大学学長、財団評議員)との対談の中で民家の生き方の形を世に提示しようという約束によって構想具現化された。
磯崎新氏と川上秀光氏との共著「現代建築愚策論」や内藤廣氏によって復刊された民家研究の金字塔となった名著「民家は生きてきた」の著者伊藤ていじ氏が戦後まもなく東京大学工学部建築学科関野克教授率いる全国町屋調査において、助手として今井町へ研究調査の際、民家でわが国唯一最古の帳台構えを発見し、今西家を実測して工学博士号を取得された。それ以来のご縁で特に祖母と親しく長らく財団の役員を務めていただいていた。
十七代目当主と民家について熱く語り合い、誇り高き現代人としての自尊心をもっているならば、祖先への郷愁としてだけではなく、むしろ輝かしい構想力にみちた未来への現代的象徴または反映として、民家を保存すると考えるという共通理念の下、民家を蘇生させ、すみつづけながら誇りをもって後世に伝えるプロジェクトを構築して、民家の未来への方向性のひとつを示すことであった。

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重要文化財今西家と今西家新家

棟持柱の儀式/伝統建築工法(軸組構法〉

そして平成元(1989)年1月、匠の技術の結集力によって、今西家新家が竣工され念願がかなった。
上棟式の日、尾田組宮大工棟梁(とうりょう)がてっぺんに登り、棟木に掛矢(かけや) を打ち下ろした途端、大黒柱と(はり)が音をたてて組みはめ込められた。それは、忘れることのできない光景で神聖な音が腹に響く、「棟持柱(むなもちばしら)」の”ささえあう”儀式であった。

工の匠尾田組が長年培い伝承してきた釘や金物を使わない(ぬき)を基本とした日本古来の継手(つぎて)仕口(しぐち)によって組み上げる「伝統建築工法(軸組構法(じくぐみこうほう))」により、平成の世によみがえった今西家新家と慶安三(1650)年の今西家の相対姿は時空をこえて今井町の本町筋に向かい合ってたつ。


今西家新家/Gallery

スクラップアンドビルドでなく、既存の建築物を長い年月にわたって蓄積されてきた智恵と工夫をもって活用することは、省資源の観点からも建築の軸となっていく。建築物は長く利用活用してこそ、価値がある。
重要伝統的建造物群保存地区では建物・町並みというストックの活用に対する価値を理解し共有することが必要となるが、何よりも光、風、雨、雪、水、緑などの自然環境が、建築形態によって仕分けられ町並みと生活環境を見事につくりだしている。
地域の人々が自然とのかかわりの中で、自然を畏敬し、獲得してきた安心の拠り所であり、地域共同体の資産であり、歴史遺産であり、文化遺産である。それゆえに、伝統木造にたずさわり関係する人々がもつ自然との調和という共生の考えは成熟社会をつくる上で根幹となる思想である。

今西家新家においては、(のき)(ひさし)で日射を調整し、中庭に落葉樹を植えて日射を遮り風通しの良い間取りをとり、土や石などを壁や床に用いることで蓄熱性能と調湿機能を考慮した。今では、不便といわれる三和土(たたき)も再現された。夏には、木々が植えられた中庭に冷気がたまり、三和土の土間を通って室内を冷やし、自然の温度差によるドラフト力によって空気の流れができ、上昇気流となって排気される。冬には、土間は熱を蓄え冷えにくくすることが「土座」様式として近世まで伝えられてきた。

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