弟磯城黒速の嫡子 天日方奇日方命と媛蹈鞴五十鈴媛命(伊須気余理比売)

【辛酉年春正月 庚辰朔 天皇即帝位】

於橿原宮ー『日本書紀』卷第三、神武紀 神武東征の目的地である磯城邑を治めていた磯城彦の兄磯城師(えしきたける)とその兵である磯城の八十梟帥(やそたける)は滅され、皇軍(みいくさ)に協力した弟磯城黒速(おしきくろはや)に論功行賞として磯城県主(しきのあがたぬし)の称号が与えられた(日本書紀神武天皇即位前期 戊午年十一月己巳条)。 神武天皇は、兄磯城軍の磯城八十梟師が兵を結集していた磯城邑の片居(亦の名を片立。 旧十市郡安倍村大字池之内及び香久山村大字池尻付近と推定)を磐余(いわれ)と名付け、神日本磐余彦尊(かむやまといわれびこのみこと)と称した(日本書紀神武天皇二年二月乙巳条)。

先住豪族のもう一人の長である弟磯城が戦さを収めて融和したことで神山御諸山を囲んで出雲ノ神を拝した民衆の叛乱を抑えた。神武東征後、天皇家にとっての重要な勢力基盤であった磯城邑を治めていた磯城県主家と外戚(がいせき)を結び、事代主神の大女(えむすめ 古事記 表記名:大物主の娘)媛蹈鞴五十鈴媛命(ひめたたらいすずひめのみこと 伊須気余理比売)を皇后とした。事代主神の少女(おとむすめ 古事記 表記名:師木県主の女)五十鈴依媛命(いすずよりひめのみこと)を第二代 綏靖天皇(すいぜいてんのう)の皇后にむかえ、以後6代にわたって皇妃(こうひ)を入れたとされる。

※ 媛蹈鞴五十鈴媛命 古事記名伊須気余理比売(いすけよりひめ)は大和国磯城郡を治める磯城氏の巫女で、磯城依比売(いそきよりひめ)の磯城(しき>いそき>いすけ)が転訛したのではないかと云う説がある。

狭井川 笹百合
狭井川 笹百合

あし原の 

しけしき(磯城)小屋に 

すがたたみ 

いやさや敷き(磯城)て 

わが二人寝し

 『古事記』神武天皇条
これは、東征の後に橿原の地で即位した神武天皇が、大久米の進言によって、狭井川の辺で見初めた比売多多良伊須気余理比売(ひめたたらいすけよりひめ)と一夜を明かした時の歌で,「古事記」中つ巻にあり、それを記念して、「神武天皇聖蹟狭井河之上顕彰碑」が建っている。

 

なお、兄磯城の勢力地域であった鳥見山は、即位後の神武天皇4年の春2月に皇祖神を祀った場所である霊畤(まつりにわ)と伝えられ、又即位後初めて皇祖天神を祀ったという日本書紀の記述から大嘗祭起源の舞台ともされる。

※ 神武二年の春二月の甲辰の朔乙巳(2)に、天皇、功を定め賞を行いたまふ。

弟磯城、名は黒速を、磯城縣主とす。(『日本書紀』巻第三〔神武天皇〕)

日本書紀では、事代主と玉櫛媛との間の娘が媛蹈鞴五十鈴媛命であり、三島溝杭の娘であるとしているので、活玉依姫と玉櫛媛は同一人物と思われる。

古事記では、大物主が陶津耳の娘、活玉依毘賣を娶って産ませた子を櫛御方とする。

 

母の名前が一緒である奇日方(クシヒカタ)と櫛御方(クシミカタ)の酷似と綏靖天皇皇后が日本書紀では事代主神の女、古事記では師木県主の祖の河俣毘売となっていることからからまとめると、

初代神武天皇皇后が古事記では大物主の娘、日本書紀では事代主の娘

二代綏靖天皇皇后が古事記では師木県主の娘 河俣比賣、日本書紀では事代主の娘 五十鈴依媛

三代安寧天皇皇后が古事記では師木県主波延の娘 阿久斗媛、日本書紀では事代主神孫鴨王の娘 渟名底仲媛(神孫は神の子孫、神裔という意味であり、単に孫ではなく直系であることをさしている。)

 

依って、大物主及び事代主は、弟磯城黒速(磯城縣主)のことで、磯城県主葉江が天日方奇日方命(鴨王)のことであると推察できる。

 

子持勾玉
子持勾玉

大物主・事代主・磯城県主・十市県主と大王家との皇后妃 外戚関係図

1、神武 かむやまといはれびこ 畝火之白檮原宮
畝傍橿原宮
古事記
日本書紀
大物主の娘 比売多多良伊須気余理毘売
事代主の娘 姫蹈鞴五十鈴媛
2、 綏靖 かむぬなかわみみ

葛城高岡宮 

葛城高丘宮

古事記
日本書紀
書紀第一
書紀第二

師木県主の祖 河俣比賣
事代主神の娘 五十鈴依媛
磯城県主の娘 川派媛
春日県主大日諸の娘 糸織媛
3、安寧 しきつひこたまてみ

片塩浮穴宮
片塩浮孔宮

 古事記
日本書紀
書紀第一
書紀第二
 師木県主波延の娘 阿久斗比売
事代主神孫鴨王の娘 淳名底仲媛
磯城県主葉江の娘 川津媛
大間宿祢の娘 糸井媛
4、懿徳 おおやまとひこすきとも

軽之境岡宮
軽曲峡宮

古事記
日本書紀
書紀第一
書紀第二

師木県主の祖 賦登麻和訶比売
息石耳命の娘 天豊津媛(姪)
磯城県主葉江の男弟 猪手の娘 泉媛
磯城県主太眞稚彦の娘 飯日媛

5、孝昭 みまつひこかえしね

葛城掖上宮
掖上池心宮

古事記
日本書紀
書紀第一
書紀第二

尾張連祖 奥津余曽の妹 余曽多本毘売
尾張連祖 瀛津世襲の娘 世襲足媛
磯城県主葉江の娘 渟名城津媛
倭国豊秋狭太媛の娘 大井媛

6、孝安 やまとたらしひこくにおしひと

室之秋津島宮
室秋津島宮

古事記
日本書紀
書紀第一
書紀第二

忍鹿比売(姪)
天足彦国押人命の娘 押媛
磯城県主葉江の娘 長媛
十市県主五十坂彦の娘 五十坂媛

7、孝霊 おおやまとねこひこふとに

黒田廬戸宮

古事記
日本書紀
書紀第一
書紀第二

十市県主祖 大目の娘 細比売
磯城県主 大目の娘 細媛
春日千乳早山香媛
十市県主等の祖の娘 真舌媛

8、孝元 おおやまとねこひこくにくる

軽之堺原宮
軽境原宮

古事記
日本書紀

穂積臣等祖 内色許男の妹 内色許売
穂積臣遠祖 欝色雄命の妹 欝色謎

9、開化 わかやまとねこひこおおびび 春日伊邪河宮
春日率川宮
古事記
日本書紀

伊迦賀色許売(庶母 伊賀色雄の妹)
物部氏遠祖 大綜麻許の娘 伊香色謎

10、崇神 みまきいりひこいにえ

師木水垣宮
磯城瑞籬宮

古事記
日本書紀

御真津比売
御間城媛

出雲屋敷 しけしき小屋 推定地
出雲屋敷 しけしき小屋 推定地